学生時代、貧乏だった話(後編) ~副業させないでください~

こちらの続き

◆前回までのあらすじ

「お前はもっと客が来る店舗にいけ」

ノジマのエリアマネージャーにそう言われ、新しい店舗に飛ばされたぽいぽいプリンであった。

◆ノジマ 2店舗目でピンチ

「今日から入ったぽいプです」
「桐生(仮)です。期待してます、頑張って」

新しいリーダーは20代半ばのイケメンだった。写真写りがいい時の小池徹平に少し似てる。仕事着であるアロハシャツの下には七分丈のピッチリとした黒いインナーを常に着用していた。エアコンや扇風機が品薄になっているこのクソあっつい時期に。

おかしい。

絶対イレズミじゃん。二の腕まで掘っちゃってるタイプのポケモンだよこれ。誓って殺しはやってないと思うけど。スジモンの桐生さんだ。スジモンマスターに、俺はなる!

そんな桐生さんに猜疑心を抱きながらも学費のために粛々と働く日々が続いた。

暇なときはコンパニオンのねーちゃんにそっと近づいて、一緒に膨張させた細長い棒のゴムの先っちょを縛り、こねくり回し、折り曲げ、ギュッと捻じり上げ、時に破裂させた。

前のノジマでは絶妙に可愛くない青いサルの着ぐるみを若いママが着て汗だくになるまで動き回っていて「うわぁお疲れ様です」と遠巻きに見ていたけれど、ここでは薄いゴムをこねくり回すだけで時間が潰れる。悪くない仕事じゃないか。

捻じり上げて出来上がった赤とか黄色とか、色とりどりな犬のような何かを子供達に配った。

 
 
繁忙期だったある日、家に帰れるか怪しい時間になっていた。走らないとバスに間に合わないかもしれない。

桐生さんに「時間やばいっす」と伝えると「車で送るよ」と提案してきた。ありがてぇ。

車の中で何を話したのか全く覚えていないけど、あっという間に地元に到着。家を特定されるのは勘弁なので駅前のパチ屋の前に停めてもらうと、桐生さんが「軽く食べていかない?」と言った。

えぇ…

正直めちゃくちゃ帰りたかった。だけどまぁ送って貰っちゃったし、いつか会わなくなる人だし、一回くらい付き合ってあげるのもよいではないか、と心の中の八方美人がひょこっと顔を出してしまった。今ちょっとその自分出てこなくていいなぁ、もう少し寝てて欲しかったなぁ。

結局、そのへんの適当なチェーンの居酒屋に入って、ほどほどに(1人で)飲んで落ち着いた頃。桐生さんが「2軒目いかない?」なんて仰った。

なんで??あなた車やん??お酒一滴も飲まないよね???

さすがに我が本能に刻み込まれた危機管理モードが発動した。

「ヤッ、ヤ~~~、イェ、ダイジョブッス、モッカエリャス」
「そうなの?いいじゃん」
「ウィッス、ウィッス、ゴチンナリャスタ」

絶っっっ対にお断りだ。

会計で財布は出したけど結局全部おごって貰って、桐生さんの車が走り去るのを確認してから自宅へと歩き出した。

翌日、桐生さんは普通だった。あの夜のことは無かったことにするらしい。

しばらくしてから、桐生さんはパートのお姉様を美味しく頂いていたという噂を聞いた。5歳以上年上もいけるのか。

あぶねぇ~~。

◆スポットでピンチ

休学期間を終えて大学4年生になった。

その頃には父はなんとか働けるまでに快復していた。呂律は怪しくなっていたけど、父とは会話をしないので特に気にならない。

就活に備えて「スポット」という勤務形態に変更した。人手不足の店舗にヘルプに行く仕事だ。

ららぽ~と、ケーズデンキ、オリンピック、ヤマダ電機などなど様々な場所を廻った。
挨拶しても完全スルーなオリンピックの女性店員がいたり、挨拶もままならないほど店員に切れ散らかしているヤマダの店長とかは居たものの、一期一会という感じで気楽にやっていた。
 
一度だけ、家からかな~り遠い長野県のケーズデンキに行くことが決まった。おかしいでしょ。もっと近い人いるでしょ。

現地の派遣会社正社員であるK氏と合流し、タクシーで一緒に現場へ向かい、仕事を終え、駅前のホテルでのんびりしていると突然、隣の部屋に泊まっているK氏から電話がきた。

「お酒買ってきたからさ~、そっちの部屋で一緒に飲まない?」

なんで??

初対面同士で、ベッド置いたらいっぱいいっぱいの狭~いビジホの個室で2人飲みとか普通にイヤなのだが??せめて飲み屋にしてくれないか。

「ねぇ、ダメ?(ハァ」
「ヤッチョ キビシッス」
「ちょっとだけでいいから(ハァハァ」
「イヤ~・・・」
「ね~おねがい(ハァハァ」

妙に電話口での息が荒い。そして昼間とはだいぶ声色が違った。聴こえてくるのはアラサーであろう男の猫撫で声。素直な感想は「気持ち悪い」。
ぶわっと鳥肌が立ち、首筋をツゥと汗が滴り、耳に寄せていたスマホは少し震えていた(ここ全部脚色です)。

なにか、なにかビシッと言い返さなくては。

「ヤッ、ヤ~~~、モッネルンデッ サーセッ オヤスャッサィ」

いつも通りだった。往々にしてカッコがつかない。「え~?」とスマホから小さく聴こえてくる中、通話終了ボタンをタップした。

あぶねぇ~~。

アッー!!な展開は本当にごめんだぞ。当時まちカドまぞくの知識があったら「ききかんりー!!」と叫んでいるところだ。

翌日。K氏は普通だった。あの夜のことは無かったことにするらしい。

色々あったけど、楽しいこともあった。サマーウォーズの聖地、上田城のソロ観光だ。立派な門と旗と奥に広がる草原の情景が、長野での思い出を優しく包み込んでくれた。

◆派遣バイバイ

就職先が決まって、派遣を辞めた。やめたはずなのだけど、それから何度か担当の声を聴くことになる。

「ねぇねぇ、この日にちょっとだけスポット入らない?まだ学生だよね?」

うん。記憶が確かなら辞めたはずなんだけどな。派遣会社の雇用契約ってどうなってるんだ??

◆社会人ぽいプ 1年目

社会人になって、すぐに実家を出た。
中学生の時から母に言われていた「早く出て行ってくれ」からだいぶ時間が経ってしまったけど、それなりに健闘したと思う。

実家から持ってきたペンタブはとっくに壊れていて、絵を描かなくなった新社会人の趣味は貯金、酒、煙草、ニコ動。

お手本のような『近代インドア系趣味なし金なし車なし生きる目標なし新社会人』をやっていた。

◆社会人ぽいプ XX年目

最近は艦これに復帰したり、マーベルシリーズを観たり、スマホで落書きが出来るようになって、休日にゴロゴロする事がなくなった。

近況報告に書いた通り、実家が愉快な状態なので貯金の趣味は脅かされつつあるけれど、余計な事を考えないように毎日やりたいことを詰め込んでいる。

詰め込み過ぎてTwitterの浮上が減っている気もするけれど、裏で好きなことをやってます。と、この場で伝えさせて頂きます。

◆おわりに

そういえば就職した直後、やっぱり電話がきた。

「ぽいプ~久しぶり~就職したんだっけ?おめでとう。ところで今週の土日、スポット入らない?」
「んっ??」
「お前の力が必要なんだよ~」

いやなんで?

ナチュラルに副業させようとしないで??

というか早く電話帳から消してくれないかな??

派遣会社をやめる時は話が通じる人にちゃんと「辞めます」って伝えることをオススメします。

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